PCI (経皮的冠動脈インターベンション)

概要

経皮的冠動脈インターベンション(PCI)とは、狭くなった、あるいは詰まった冠状動脈(冠動脈: 心臓の筋肉を栄養する血管)を治療するために行われる非外科的処置(循環器内科医が担当します)の総称です。大腿動脈(足の付け根)や橈骨動脈(手首)、あるいは上腕動脈(肘部)を通して、血管内に筒状のカテーテル(2〜3mm径)を冠動脈入口部に持ち込んだ後、造影剤とX線イメージングを使用して冠動脈を観察します。その後、術者によりカテーテルの手元から冠動脈内に進めたガイドワイヤー(通常0.35mm)で病変部を通過させ*1、それに載せる形で(ガイドワイヤーをレールにして)バルーンカテーテルを病変部に進め*2、バルーンを拡張して狭窄や閉塞を解除します(POBA: percutaneous old balloon angioplasty)*3。その後、バルーンの外側に折り畳んだステント搭載した「ステント付きバルーンカテーテル」を病変部に持ち込み*4、内側のバルーンを拡張してステントを展開します。*5これにより血管の拡張状態を確実に保持することができます(ステント留置術)。
PCIにかわる冠動脈血行再建術には、冠動脈バイパス移植術: CABG(しばしば「バイパス手術」と呼ばれる)があります。CABGは体内の他の場所から血管を移植することによって狭窄冠動脈を迂回する方法をとるため血管の中から治療するPCIとは発想が異なるものです。病変の数、病変の複雑さ、糖尿病患者など特定の状況下では、PCIよりCABGを選択する方が予後(命に関わる出来事を起こさない期間)が優れている場合があります。PCIは、関連する学会専門医や認定医など一定の基準に達した熟練した術者が適切な施設環境において行うことを原則としています。

ステント留置までの流れ、冠動脈内での様⼦

*1

ガイドワイヤー

*2

バルーン(拡張前)

*3

バルーン(拡張中)

*4

ステント(拡張前)

*5

ステント(拡張中)+ステントバルーンとガイドワイヤーを抜去

出典: インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラスより画像引用・改変

歴史

当時、経皮的冠動脈形成術(percutaneous transluminal coronary angioplasty: PTCA)と呼ばれたこの治療は、メスを使わず皮膚を通して動脈内腔に道具を通過させることを意味し、世界で最初の治療は1977年9月16日にアンドレアス・グルンツィヒ(心臓外科医)によって、スイスのチューリッヒで行われました。 グルンツィヒが米国のEmory 大学に異動したことで、この治療が世界中に拡散することになりました。日本における最初のPTCAは1980年12月に行われたとされています。 1980年代半ばまでに、世界中の多くの医療機関がこの手技を採用し、循環器内科医が治療を担当するようになりました。1992年に初の冠動脈ステント(Palmaz-Schatz Stent)が登場するなど、冠動脈内で行われる治療の範囲が広がるにつれて、手技の名称はPTCAからPCI: percutaneous coronary intervention (経皮的冠状動脈インターベンション)に変化しました。

PCI の適応になる疾患

  • 労作性狭⼼症
  • 不安定狭⼼症
  • 急性⼼筋梗塞
    (ST 上昇型、
    ⾮ST 上昇型)
  • 無症候性⼼筋虚⾎

PCIに使⽤される医療機器

PCIはメスを必要とせず、狭窄/閉塞した冠動脈を内側から拡張し、心筋の筋肉組織への血流を回復させるために行われます(一方、バイパス手術は胸を開き、心臓を直に見える環境に置いた上で、体内の他の場所から採った血管を移植することで冠動脈の病変を外側から迂回します)。冠動脈血流が急激に制限または遮断されている患者(急性心筋梗塞)では、PCIが第一選択となる場合が多くみられます。PCIはステントの挿入を含むことが多いですが、ステントの内部に起こる再狭窄(数ヶ月後に再び内腔が狭くなること)への治療、あるいはステント留置が適さない小さな血管(使用されるステントの直径は2〜3.5mmに限られる)には、バルーンのみ(しばしば薬剤溶出性バルーン: DCB, が選択される)での治療が行われることもあります。
他にもステントを使用しないPCI (あるいは適切にステントを留置するための前処置)として冠動脈内部に形成されるプラーク(粥腫)の切除術(DCA: Directional Coronary Atherectomy)や、極端に硬化(石灰化)した病変を掘削するロータブレーターによる回転式アテレクトミー、冠動脈内に形成された血栓を蒸散させるレーザー焼灼術(ELCA: エキシマレーザー冠動脈形成術)、吸引カテーテルによる血栓吸引術などが挙げられます。現在日本で使用されるステントの素材は金属ですが、一定期間のみ冠動脈内の病変部を内側から支えた後に生体内に吸収されて消失する生体吸収性スキャフォールド(足場の意味)の開発が複数の企業で進行中です。

使⽤するステントの種類

1992年に登場した冠動脈ステント(ベアメタルステント: BMS)は動脈壁を内側から支持することで冠動脈を開いた状態に維持することを可能にし、バルーンのみの時代には治療直後に高い頻度で起こっていた冠動脈閉塞や、再狭窄を予防する点で画期的な医療機器となりましたが、数ヶ月後に30%に再狭窄をきたすのが欠点でした。その問題を解決すべく2001年に薬剤溶出性ステント(ドラッグエルーティングステント: DES)が開発されました。DESは、細胞増殖を防ぐ薬剤(抗がん剤、免疫抑制剤)を含む樹脂を、金属製ステントの表面に施したステントで、薬剤は時間の経過とともにゆっくりと血管組織に放出され、炎症反応や免疫反応のコントロールにより、組織の過剰な増殖を抑制することで、ステント内再狭窄を低減することができます。最初の2つのDESは、シロリムス溶出ステント(SES)とパクリタキセル溶出ステント(PES)であり、BMSの問題点であった30%の再狭窄を5-10%に抑制することに成功しました。その後、エベロリムス、ゾタロリムス、バイオリムスなどの薬剤と、骨格にあたる金属製ステント、特徴あるポリマーとの組み合わせにより数社が新世代のDESを開発、現在本邦で数種類のDESが使用可能な状況にあります。ステントの強度や曲がった血管への追従性、狭い病変への通過性の良し悪し、薬剤が放出される時間や、薬剤が溶け出した後の樹脂の特性、ステントの直径(2mm〜3.5mm)や長さ (8mm〜48mm) のラインナップなど、各製品が持つ特徴によって、使用するDESを使い分けます。
2006年に発表された報告では、DESの留置から1年以上経過してステント内部に血液凝固が起こる「晩期ステント血栓症」が問題視されました。突然のステント血栓症(欧米では0.9%に発生すると報告)には高い死亡率が知られているため、従来型BMSの安全性に再度注目が集まった時期もありましたが、ステント治療後の確実な内服(アスピリンに代表される抗血小板薬)によりそれが抑制されること、本邦での発生率は欧米と比較して極めて低いこと、加えて新世代ステントの性能が向上したことで、現在ではステント血栓症に関する懸念が大幅に軽減されています。

医学的適応

安定狭⼼症

安定冠動脈疾患に対する冠血行再建術の目的は生命予後の改善,心筋梗塞・不安定狭心症の発症予防,狭心症改善による生活の質(QOL)の向上です。重症安定冠動脈疾患(左主幹部病変、左前下行枝近位部病変を含む多枝病変、特に低心機能、糖尿病を合併した多枝病変など)に対する冠動脈血行再建方法の選択は、内科医と外科医との共同討議を踏まえて患者に提案することが望ましく、最終的には患者さん自身の意思決定に委ねるべきと考えられています。(日本循環器学会安定冠動脈疾患に対する冠血行再建術(PCI/CABG): ステートメント&適応(冠動脈血行再建術協議会)
2018年2月に中医協議会に提出された、2018年度診療報酬海底に関する「個別改定項目について」によると急性心筋梗塞や不安定狭心症以外の病態(つまり安定狭心症)に対するPCIの適応に関しては以下のいずれかに該当することが条件とされています。

  1. 冠動脈造影上90%以上の狭窄病変
  2. 患者の狭心症状の原因と考えられる狭窄病変
  3. 機能的虚血の評価のための検査を実施し、機能的虚血の原因病変と確認されている狭窄病変

過去の数多くの臨床試験の結果から、急性心筋梗塞や不安定狭心症に対するPCIは生命予後(将来の死亡)を改善する手段として幅広く認知されて来ました。一方で、安定した狭心症に対するPCIは胸痛症状の改善作用は認めるものの生命予後改善や将来の心筋梗塞予防には効果的でないとされてきました。しかしながら先端の圧センサーを用いて冠動脈内圧をモニターする特殊ワイヤーを用い、病変を挟んだ遠位部と近位部の圧の比を測定して客観的に虚血の程度を評価するFFR(fractional flow reserve)という検査法の登場により、心筋虚血が証明された病変に関しては、PCIを受ける方が薬物療法(抗狭心症薬)と比較して予後が改善される事が示されました。

急性冠症候群(急性⼼筋梗塞、不安定狭⼼症)

急性冠症候群に対するPCIは、急性期治療として広く受け入れられており、発症12時間以内の急性心筋梗塞に対して再灌流療法を行うことの有効性は確立しています。いかに迅速に冠動脈の血流を再開させるかが治療のポイントであり、患者様の予後に直結します。PCI以外の再灌流療法として血栓溶解療法(点滴で詰まった冠動脈の血栓を溶かす治療法)やCABGも選択肢となりますが、本邦においては特にST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)の場合、PCIが多く行われています。
発症12時間以内のST上昇型急性心筋梗塞患者に対し、熟練したチームによって院内に到着してから90 分以内に達成されるPCIは適切な治療法とされています。2003年にPCIのほうが血栓溶解療法よりも予後を改善することが示され現在では標準治療となっています。しかしながら、本邦ではPCI施行施設まで距離のある遠隔地や離島などもあり、その場合にはPCIに先行して血栓溶解療法を考慮する状況も存在します。

緊急で⾏われるPCI

プライマリーPCIは、特に急性心筋梗塞を発症した患者に対するPCIの緊急適応のことで。血栓溶解療法を先行させることなく再灌流療法として最初からPCIを選択することをさします。不安定狭心症など病態の進行により急性心筋梗塞に進展する危険性が高い場合にも緊急PCIが行われることがあります。緊急でないPCI(待機的PCI)は、内服薬で症状をコントロールするのが難しい安定狭心症に適応になっています。

急性心筋梗塞症例へのPCIの様子:実際の冠動脈造影の静止画像

1:冠動脈が完全閉塞した急性心筋梗塞

2:ワイヤーの通過でわずかに血流改善

3:バルーンで閉塞部を拡張

4:血流は良好に改善したが、拡張は不十分

5:薬剤溶出性ステントを拡張中

6:治療後最終の造影

具体的な⽅法/⼿順

PCIは通常覚醒下(全身麻酔なし)、局所麻酔薬を使用してカテーテル挿入部の疼痛をコントロールするだけで行われます。専用のX線照射装置を備えた心臓カテーテル検査/ 治療室において、患者はベッド上に仰向けの姿勢で、術者は通常患者の右側に立つ形で手技を行います。助手にあたる医師、看護師、臨床工学技士、放射線技師などが医師と協働して、手技のサポート、患者さんのケア、専門的医療機器使用時の介助、X線照射装置の設定の調整などをサポートすることで、安全な治療を行うことができます。
事前に決定されたカテーテル挿入動脈(橈骨動脈、大腿動脈、上腕動脈など)周囲の皮膚を消毒、皮膚と皮下組織に十分な局所麻酔を行った後、動脈には、「穿刺針」*Aと呼ばれる針で皮膚を貫く形で開始され、この事が「経皮的」の由来となっています。動脈に針の通過が得られたらワイヤー挿入*Bの後、カテーテルの出し入れや交換を安全に行う「シース」を穿刺部から挿入します*C *D。このシースの中を通して、「ガイディングカテーテル」と呼ばれる長くて柔軟性のある柔らかいプラスチックチューブを動脈の流れと逆向きに血管内に進め*E、カテーテルの先端を心臓の出口(大動脈基部)に存在する冠状動脈の入口まで誘導します。術者が注入する造影剤はガイディングカテーテルの先端から冠動脈に充填され、その結果、狭窄や閉塞の部位や形態、重症度や周辺血管との解剖学的情報はリアルタイムX線可視化装置(透視)を用いて評価されます(冠動脈造影)。「シース」の挿入以降、血管内に挿入される様々な医療機器は血栓が付着する原因になりますので、その予防に薬剤(ヘパリン)が血管内投与されます。冠動脈造影後には、術者は冠動脈の大きさや長さを推定し、治療に使用するガイドワイヤーやバルーンカテーテルの種類を選択します。
放射線不透過性(透視で確認できる)のある柔軟な先端を有する極めて細いワイヤーである冠動脈ガイドワイヤーは、術者の手元からガイディングカテーテルを通して冠状動脈内に挿入されます。術者は透視によって先端を確認しながら、手元にあるワイヤーの先端部を慎重に回転操作することで冠動脈内部の狭窄または閉塞部まで誘導、先端の前進と方向を制御しながら病変部を通過させます*F。病変部の通過後はその先端を冠動脈内をさらに先(抹消)まで進めることで、その後の手技の安定化を図ります。

*A

*B

*C

*D

*E

*F

ガイドワイヤーが予定通りのルートで冠動脈内に留置された後、ガイドワイヤーはバルーンカテーテルが走行するレールの役割をします。バルーンカテーテルの先端は中空であり、術者の手元でガイドワイヤーの尾部より挿入*G1された後は、冠動脈内まで留置されたガイドワイヤーに沿いながらガイディングカテーテル内から冠動脈内に進む*G2ことが可能になります。折りたたまれたバルーンを病変部までゆっくりと進めた後、バルーンカテーテルの尾部に、バルーン内腔に圧を加える拡張機器(インデフレーター)を接続します。その後は通常、助手による加圧でバルーンが拡張し*H、狭窄あるいは閉塞の原因になった動脈硬化性プラークを圧縮し冠動脈内腔の拡大を得ることができます。

*G1

*G2

*H

バルーンによる拡張のみでは十分な効果が得られないと判断される場合に、冠動脈ステントを使用して確実な内腔の確保を行います。体外での冠動脈ステントはバルーンの外側に折りたたまれて圧着されており、バルーンカテーテルと同様の手順で冠動脈内病変部まで進められた後、内側のバルーンを拡げることで冠動脈病変部に展開することができます。バルーンカテーテルとガイドワイヤーとガイディングカテーテルは役割を終えると術者により体外に回収されますが、ステントは冠動脈内に永久的に留置されることになります。狭心症の多くは術後1-2日後に退院可能になります。心筋梗塞の場合にはリハビリ期間を要することから、心臓のダメージによって数日-数週間の入院とリハビリを要します。

PCI後の内服薬

「十分な薬物療法が予後に及ぼす影響は、PCIのそれに匹敵する」という結果をもたらした臨床研究(COURAGE トライアル)の結果から、狭心症の治療には内服薬が先行されるべきです。ステント治療直後はステント血栓症(ステント内に血栓が発生し内部を急激に閉塞させる合併症)の予防目的で抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロルなど)の確実な服薬が必要です。狭心症/心筋梗塞患者に合併しやすい高血圧、糖尿病、脂質異常症(高コレステロール血症)への治療も同時に行う必要があり、また心筋梗塞後は心筋の構造変化(心筋リモデリング)を予防する必要があるため、PCI後の患者さんの内服薬は数種類にのぼります。
PCI後はステント血栓症と心筋梗塞の再発を防ぐために数ヶ月間に渡って2種類の抗血小板薬を、それ以降も最低1種類の抗血小板薬を永続的に服用することが勧められています。2剤の抗血小板薬を継続すべき理想的な期間は十分には明らかになっておらず、病態(PCIを受けた理由が狭心症か急性心筋梗塞か)やステントの種類、治療の複雑さ、合併する他疾患(心房細動など)によっても必要性が異なります。ステント血栓症の予防と心筋梗塞の再発予防を目的にすれば、一般的には長期間継続するほど安全と言ますが、一方で抗血小板薬の服用中に起こる出血性の合併症(脳出血や胃潰瘍、下血、皮下出血、ケガによる出血)に関しては、抗血小板薬が状態を悪化させる可能性があり、それぞれの患者様の背景(出血のリスク)を考慮した調整がしばしば必要になります。理想的(安全かつ有効)な内服期間を規定する日本人を対象とした臨床研究の結果が待たれますが、こういった根拠(エビデンス)を創出するためにも患者様の協力が必要になります。

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